バオー来訪者
1984年、ジャンプが絶頂期を迎えていた頃の話だった。
一風変わった漫画が新連載を開始した。
全ページに渡ってへんちくりんな擬音と、妙な台詞回しが溢れ、勢いだけで書かれたとしか思えない変なポーズをキャラが取っている。
でも面白い。
滅茶苦茶に面白い。
それが、「バオー」であった。
凄まじいエネルギーを注ぎ込んで描かれたこの漫画、設定の斬新さと強烈なキャラの個性はこの頃の荒木氏に既に充分に溢れていたようだ。
舞台は三陸海岸、秘密結社「ドレス」の生態兵器として利用されていた少年と少女は僥倖で脱出に成功、やがて追っ手と戦ううちに二人の間には絆が生まれて・・・というプロセスなんかどうでも良くなるパワー。
とにかくパワーのみ。
絵柄の異常さが更にそれを煽りたて、読む者を問答無用で世界の中に引き摺り込んでいく。
ギャーーーーン!!
だとか
ドッバァァァァアアアアン!!
だとか
ギュオオオオオム!!
だとか、今まで読んだ事のない、聴いたことのない効果音が有無を言わさず襲いかかってくる。
とにかく力尽く。
1にパワー2にパワー、3、4がなくて5にパワー。
パワーが物語を引っ張っていく、そんな印象であった。
躍動感溢れるこのパワーが雑誌の中から溢れだし、読者を押し流していくかのようであった。
しかし、このパワーに騙されてはならなかった。
荒木氏はこの物語を描くに当って、実に綿密な設定を練り込んでいたのである。
新たな物語を作るとき、重要になるのはキャラクターと、世界設定である。
荒木氏は連載を開始する前に、ここに全エネルギーを傾注したのだ。
この細かな設定への配慮が、物語を支える事になっていたのである。
物語はキャラクターが作っていく。
ここを荒木氏はしっかりと押さえ、まずは主人公の二人、少年と少女のキャラクターを独立させる事に成功したのだ。
キャラが立った物語は、それだけで勝利している。
そこに独特の世界観が絡んだのである、面白くならない筈がない。
更に、できうる限りの科学的な裏づけを与え、その上でキャラクターから迸り出るパワーを解き放って暴れさせたのだ。
「バオー」の持つパワーは、この綿密な設定の上に成り立つ、実に繊細なものだったのである。
やがて「バオー」の連載が終わり、新たな設定のもとに荒木氏は「ジョジョ」を描き始める。
ここでも荒木氏はキャラクターに「命」を存分に吹き込み、暴れさせている。
荒木氏の漫画に共通するパワーは、全てこの綿密さの上にあることを忘れてはならない。