エリーのアトリエ


ガストが放った育成錬金術シュミレーション「マリーのアトリエ」の続編、それが今回のお題である「エリーのアトリエ」である。
ここでは便宜上「エリーのアトリエ」に触れるが、基本的にはこのシリーズの作品全ての事だと思って頂こう。
のんびりほのぼのとした雰囲気と、呑気で可愛い音楽。
変にシリアスに走らず、あくまでゲーム雰囲気を大切にした演出。
そして、それを裏付ける愉快なキャラクター達。
基本となる面白さを全てシステムに委ね、あとは面白おかしく遊べるように設定された世界観が実に秀逸なゲームである。

このゲームでまず注目したいのが、マルチエンディング方式を最大限にまで利用しているところ。
選択肢による分岐方式などではなく、あくまで育成シュミレーションとして最終的に出た「結果」によってエンディングが変化するのである。
フラグメントが全く無いと言っても良く、あくまで「過程」と「結果」が重大視されているのである。
つまり、ゲーム中に起こるイベントによってエンディングが変化するという事が殆ど無いのだ。
これはかなり大きい意味を持つ。
通常、イベント分岐方式を取った場合のゲームでは、攻略はある程度自然な流れに乗ることになる。
悪く言ってしまえば、このイベントを起こしたらもう勝利確定、という部分がある訳だ。
このゲームではその可能性を極限まで小さなものにしている点が大きい。
無論、全部が全部イベントと無縁というわけではない。
だが、そのイベントが起こる条件が既に、シュミレーションシステムの「結果」の部分によって大きく左右されているのである。
取った行動ではなく、成長の度合いによってイベントの発生が決定しているため、あらゆる結果に行き付ける可能性が、最大の確率で用意されているのである。

また、キャラクターの魅力が非常に大きい。
前作の「マリー」に於いてもそうだったのだが、主人公ははっきり言って「劣等生」なのである。
ただし、どう努力してもダメなタイプ、と言う訳ではなく、やれるのにやらなかったタイプであるからこその結果だといっていい。
この完全無欠の劣等生を、あなたがシュミレーションシステムのはじき出す結果によって救うわけだ。
つまり、実像としての「俺に(ボクに、或いは私に)極めて近い」人物なのである。
否応無しに親近感が湧いて来るというものである。

のみならず、サブキャラクターとして配置された面々も実に魅力的である。
前作ではいなかった「同性のライバルキャラ」も用意され、より人間関係に重点を置いた演出がなされている点にも注目したい。
また、錬金術の材料集めに同行してくれる冒険者達も一癖も二癖もある連中ばかり。
前作では完全に排除されていた「ラヴラヴ」的要素も組み込まれており、前作からの充実ぶりは実に見事なレベルになっているのである。

思うに、昨今のゲームが追及している方向性は「リアリティ」だといっても良いだろう。
つまり、ゲームを構築していく上でその世界観に説得力を持たすためには、出来れば高いレベルのリアリティが必要となると言う事だ。
勿論ゲームの方向性にもよるが、最近のゲームの大きな傾向としては、この「リアルな設定追求」というものが主流だと思う。
当然の傾向として、リアルな設定に基いたシリアスでへヴィなストーリーを持つゲームが多い。
勿論、これはこれで素晴らしい。
ゲームとは思えないほどの高い完成度を持つストーリーもあるくらいで、そのリアル路線の追及自体は賞賛に値するといって良いだろう。

翻ってこのゲームを見た時、真っ先に思うのが「ゲームはリアルだけじゃない」という事である。
これだけ作り込まれたものであれば、バレバレの架空の世界観の中でも充分にゲームとして楽しめるのである。
必要以上のリアルさを持たせず、逆にありそうもない架空の話を先行させて、それでも充分におもしろいゲームを作る。
ある意味、リアル路線の追求よりも難しい話だ。

ガストとはその路線に挑みつづけるメーカーであり、「アトリエ」シリーズとはその最高の産物なのである。


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