強殖装甲ガイバー


少年漫画の王道とは何か。
明確な答えを示す事は難しいが、それでもある指針を示せば、「先が読めているのに、それでもドキドキワクワクする」という点があると思う。
この場合、先が読めるというのは細かい点まで読めるという訳ではなく、大まかなストーリーが先読みできるという事である。
必ずしもセリフや設定の細部までが読めるという事ではない。

かつて、少年漫画では多くのバトル漫画が描かれてきた。
その多くが独創的な世界観と高い画力と、そして魅力的なキャラクターに支えられてきた事は疑いがない。

一つ一つ、分解してみていこう。
世界観は現実に基くものであればあるほどいい。
仮に近未来の話であっても、そこで展開される設定は、あくまでも現在の科学的根拠に基き発展したものであることを証明するのが望ましい。
革命的な世界設定をする場合も、何故そうなったのかという細かな設定を常に見せる必要がある。
このあたりを蔑ろにすると読者を置いてきぼりにしてしまい、結局ろくでもない漫画だった、との評価を受ける事になる。
画力も重要だ。
この場合、細かく書き込まれた物を描ける必要は、必ずしもない。
必要なのは、バトルを見せる(魅せる)ための迫力ある画である。
コマ割り、セリフの配置、見開きの使い方。
こういった細かな部分まで気を使っていれば、大体オッケーである。
無論、精密な画力はあるに越した事はないが、それよりも見せ方、つまり演出力とでもいったものが、より重要となる。
そしてキャラクター。
主人公の造形は勿論、ヒロインやライバル、或いはラスボスとなる敵の造形も、きっちり描かなくてはならない。
練り込まれたキャラクター造形と、それを的確な場面で的確に見せていく技量を問われるのである。
そのキャラクター配置も、単純な三等配置(主人公・ヒロイン・ライバル)以外のキャラを効果的に据えておく事が必要になる。
味方か敵か、分かりにくいキャラの存在があると、尚望ましい。
そして、敵のもつ「強さ」の描写を、圧倒的な形で見せつけなければならないのである。

では、この「ガイバー」ではどうだろうか。

画力は全く問題ない。
非常にスッキリとした絵柄で、表情豊かにキャラが動き、メカが躍動する。
書き分けもハッキリしていて見ていてレヴェルの高さを感じさせるものがある。

では、世界観はどうだろうか。

ガイバーとは、かつて地球上の生命を操作し進化を促す事で、理想的な生物兵器を作ろうとした宇宙人たちの装備である。
大前提として「地球上の生命は、ある宇宙人たちの実験の結果生まれた物だ」という設定を作った訳である。
これが世界観にあたる訳で、この時点でストーリーの壮大さがつかめようというものだ。
そして、この宇宙人たちの「遺産」を使い、地球征服、そして、そこから兵を選りすぐり、宇宙への進出を目指すのが敵の組織である。
この敵の組織が全貌をあらわす前、秘密結社だった頃のストーリーを第一部とし、彼らが地球征服に成功した後、主人公たちが地下組織となった話を第二部として描いている。
立場を入れ替えてのストーリー展開、かなり絶妙といえるであろう。
世界観に矛盾が出ないように、主人公の立場を変える事で、展開に刺激を与えている訳である。
てこ入れという手法自体は珍しくないが、こういう手段をとる事によって世界観の崩壊を防いだ手腕は見事の一言だろう。

そしてキャラクター。

はっきり言って、この漫画ほどに綿密にキャラクターを描いた少年漫画を、俺は知らない。
まず主人公。
彼は極めてオーソドックスな主人公で、偶然手に入れた強大な力に戸惑い翻弄される。
だが、自分の迷いから父を手にかけてしまい、結果として、敵組織に完全と立ち向かうようになる。
しかし、そこには、信頼していた味方の裏切りや死があり、主人公は己の力の不甲斐なさを噛み締めながら、挫けそうになりつつも立ち上がろうとするのだ。
そんな主人公を支えるヒロイン。
彼女は、はじめは主人公を異姓としてみていなかったが、やがて主人公のそばに寄り添い、共に闘う事を決意していく。
そして、主人公立ちのアドバイザーたる、ヒロインの兄。
戦闘こそ行わないものの、局面ごとに主人公を精神的にバックアップし、参謀としての役を果たしていく。
役所としては、これで主人公・ヒロイン・めがね君と揃った訳だ。
更に、重要な役であるライバルには、二通りの人物を用意してあるところが、この漫画のアクセントだといえよう。
一人は、主人公をコマとして利用し、踏み台とする事で己の野望を果たさんとする味方の男。
味方でありながらもその行動は利己的動機に基いており、時として味方への苛烈な仕打ちにも現れてくる。
自分を慕う女性をも利用し、目的のためには躊躇なく手段を選ばない道を取る。
味方にすれば頼もしいが、敵に回せば厄介な男、それが潜在的なライバルとしての地位を与えられている。
もう一人は、かつて主人公に同胞を殺され、復讐の念にとらわれた男。
その復讐心は直線的で、味方の邪魔すらも許さない圧倒的なものがある。
しかしそれゆえに主人公に対しては複雑な心持もあり、迷い、悩む主人公を彼なりの方法で勇気付けようとしたりもする。
強くない主人公には復讐する価値もない、その一念でのみ動く男、それがもう一人のライバルである。
この「二人に分かれたライバル」のおかげで、物語の幅が大きく広がった。

また、ラスボスに当る人物を「一人」と設定せず、集団にした事も見るべき点であろう。
こうする事によって、敵側の人物達の葛藤や軋轢、或いは不信感や信頼関係などを有効に描き、敵の「人格」を形成していく。
そこには「徹頭徹尾嫌なヤツ」は存在せず、全ての人物が、目的と意識を持って行動していく姿が描かれる。
この漫画においては、主人公チームではなく、敵たちに感情移入していく事も出来るのだ。
魅力的な敵キャラ、その演出である。

これだけ複雑に人間を配置し、世界観を大きく取りながらも、物語はシンプルに、破綻することなく進行していく。
友情や愛情に支えられ、辛くも勝利していく主人公。
主人公の成長を促すライバルの存在。
ピンチから一転、思いもよらぬ勝利を手にするチームワーク。
そして、残虐でもなければ暴君でもない、魅力的な人格を持った敵。

どれもが少年漫画の王道を行くものであることは分かるだろう。

この漫画では、少年漫画のお約束を忠実に踏襲しつつ、それに味をつけていく形で、世界観やキャラクターを演出しているのだ。
王道を踏み外さないから安心でき、それでいながら意外性を与える演出。
少年漫画の理想がここにあるのだ。

少年キャプテンという、矢鱈とマニアックな雑誌から羽ばたき、今や単行本総部数は360万部を突破。
まだまだ先の見えないストーリの続きを、長年の読者は首を長くして待っている次第だ。


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