東海温泉漫遊記・その2


コンビニの駐車場にて、約5時間の睡眠をとった俺達。
目覚めは実に爽やかだった普段布団の上じゃ12時間寝たって眠気が取れないくせに。
やはり旅行という事で、何処かテンションが高めになっているようだ。

天気は昨日と変わらず快晴のまま。
絶好の旅行日和である。

Z:「じゃ、出発するか」
俺:「取り敢えず北だね」

相変わらず「目的地」という概念が欠落したままで行動する俺達。
北に向かえば、取り敢えずは沼津である。
二人の前頭葉は状況に相応しい言語を紡ぎ、海馬を刺激して同じ言葉を口から発する。

「まぁ沼津に着けばなんとでもなるでしょ」

一体俺達は前日の行動から何を学習していたのであろうか……。

で、車の流れが徐々に滞り始め、いかにも大きな都市における渋滞の様相を呈し始めてきた頃。

Z:「ホントはさぁ、昨日こなかったら一人で京都まで走ってみるつもりだったんだよね、俺」
俺:「別に俺はそれでも構わないよ」

おもしろけりゃ良いや。
どうやら俺達を支配する行動理念はそれしかないらしい。

流石に京都は今からじゃキツイ、という事で、今回は沙汰止みになった訳である。

で、初期の計画に従って、温泉を目指そうかという話になる。
沼津から行ける温泉となると、富士五湖の近辺しか知っているのが無い。
しかし、富士五湖であれば、俺は良く知っているので色々と便利だろうと踏んでいた。
内心、どうやらゆっくりと腰を落ち着ける事が出来そうだ、と安堵する俺。

途中、ガソリンスタンドで給油してから、国道138号線を山梨に向けて北上する俺達だが……。
何か様子がおかしい。
国道らしからぬ狭さ、車の少なさ。

Z:「これ、道間違ってんじゃねーか?」
俺:「そうかぁ? 正しいんじゃないの?」

その答えはすぐに出た。
俺達の目の前には「カントリークラブ」の文字が。

Z:「つまり、ゴルフ場に迷い込んじゃった訳だ、俺達」

地図で確認してみても、この先は行き止まりであった。
となれば、Uターンして戻るしかない。
狭い道で何度も切り返して、漸く車を反対に向けた時だった。

それは、まさに天啓と言って良いだろう。

Z:「今から名古屋に行って、『月天』(*注1)に行こうぜ!」
俺:「それで行こう!」

即答。
そこには、ホンの一瞬の躊躇も無かった。

現在地、沼津の北北東約15キロ、名古屋までの距離、約200キロ
明かに長距離移動なのに、その場のノリ一発で決める俺達。
アホもここに極まれりである。

しかし。

「そうと決まれば、早速1号線を西へ!!」

二人ともやる気満々。
さっきまでの「ゆっくり出来る」という安堵感は完全に無くなっていた
富士五湖の温泉など、既に忘却の彼方である。
その時の俺達には、やると言ったらやる『スゴ味』があった。

京都はキツイって言ってたくせに、名古屋ならOKというのも不思議な話ではあるが。

で、矢鱈とハイになって運転するZ
ハンドル捌きもちょっぴり危うい。
そして、一直線の下り坂に差し掛かったとき、Zは事もあろうにカーブまでノンブレーキで突っ込み始めた。
車はぐんぐん加速していく。
50キロ以上は出ていただろう。
そのカーブは90度のカーブなのだが、Zは45度くらいのカーブだと思い込んでいるのである。

俺:「うわ―――ッ、恐ェェエエエエ――――――ッ!!」

絶叫である。
まさに目の前の壁に突っ込まんばかりの勢いである、はっきり言って命が危ない。

しかし、そんな時でも俺の中にはあるJOJOネタが浮かんでいた。

「これしかない! あたる面積を最小にしての波紋防御!(*注2)」

流石に口に出して実行する余裕はなかったが。

で。
結局車はギリギリで激突を免れた。
めでたしめでたし。

その後、国道1号線と東名高速を利用し、順調に西へ向かう俺達。
そこには迷いも後悔も微塵も無かった。

Z:「今の俺達の行動を2ちゃんとかで報告したら、速攻で『ネタ』とか言われそうだ」
俺:「実況報告したくなるね、『今浜名湖にいますが何か?』とか言って」

完全に舞い上がってる俺達。

さて、それはいいとして『月天』の正確な住所がわからない俺達。
名古屋までまだかなりの距離があるとはいえ、情報は出来るだけ早く手に入れておきたい。
当初はインターネット喫茶なんかがあればと思っていたのだが、走り回っている限り、そういう便利な物は見当たらない。
しかし、そこで挫折するという考え方は全く浮かんでこなかった。

俺:「でも、『月天』の正確な位置が分からないのは痛いな」
Z:「じゃあ、N(俺達の共通の友人・名古屋近辺には詳しい)に電話して訊いてみよう」

いかなる障害も粉砕して、力尽くで辿りつくつもりの俺達。
Nさんの迷惑も顧みず、結局電話して無理矢理協力させる事に(Nさん、その節は誠に多大なご迷惑をおかけ致しました)。

そして日も落ちる頃。
俺達は名古屋市内で地図を片手に走り回っていた。
目印となる公園の近くの駐車場に車をとめて、後は徒歩で市内をうろつく。
結局、場所がわかるまでの間にNさんに合計で5回以上、3分に1回くらいの割合で電話するという迷惑をかけつつ、ついに辿りつく。

 

この旅は無理な事ばかりしてきた旅だった……。
無理だとか無駄だとかいった言葉は聞きあきたしおれたちには関係ねえ。

 

まさにエジプトで一仕事終えたスタンド使いの気分である。

 

で、月天。
カウンターに座らされてしまったのが遺憾ではあるが、酒も美味く、巫女さんはナイスないい店である。
といっても、帰りは俺が運転する予定なので、ちょっと飲んだだけだったけど。
東京支店の開店きぼーん。

さて、店を出る頃にはすっかり夜は更けていた。
時計を見ると、夜の10時を指している。
一応休みをとりながら、東名高速を利用して東京へ帰還する事に決定する。

それから約2時間後。

俺達は日本列島の中心部を走っていた。
太平洋岸を走る東名高速とは、随分距離が離れている。
どうやら、モノの見事に道を間違えたらしい。
途中で地名を確認し、コンビニで地図を確認してみた所、東名高速までの距離は100キロ以上
良くもまあ、それだけ間違えていられたものである。

で、もうちょっと走れば中央自動車道があるのに、敢えてそれを無視する俺。
思いっきり無駄足なのは承知で、東名まで引き返す。
流石に疲れたのと、酒が入ったのが祟ったのだろう、Zは助手席で深い眠りに落ちていた。
その間、山、山、山。
走り屋さんはいるは、山道が崩れてるは、変な未確認小動物に出会うは。
孤独なハードドライビングが淡々と続く。

全部自業自得だけど。

やがて東の空が白くなり始めた頃。
ついに東名高速に車を乗せることに成功した。
名古屋を出てから実に6時間。
普通に東名を使っていれば、とっくに東京で惰眠を貪っている頃である。
でも、現在地は静岡の西端、浜名湖。
平たく言えば、早い話が愛知県との県境、名古屋から全然離れていない。

あまり言いたくないが、どうやらこの6時間、走行距離約200キロは全くの無駄足だったようである。

疲れ切った俺もついにダウン、後は明け方のサービスエリアの駐車場で、ゆっくりと横になる。
次に目覚めるのはいつだろうか……。

 

←To Be Continued !!

 

*注釈

注1「月天」……名古屋市内にある飲み屋さん。巫女さんの格好で給仕してくれる。それだけではなく、出てくる酒も美味い事が今回判明した。

注2「あたる面積を〜〜」……ジョジョの奇妙な冒険・第1部の登場人物であるツェペリ男爵の台詞。詳しい状況と、この時のポーズは単行本第四巻を参照すべし。この時の俺は、シートの背もたれを倒し、体を水平にして言うつもりだった。


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続きもあるんだな