ザ・名演 Part11


今回は、2度目の登場となるデフ・レパードの「Hysteria」である。
このアルバム、全米だけで1200万枚にのぼるセールスを記録しており、恐らく全世界では2000万枚にも達するのではないかというメガヒットになった。
因みに、このアルバムが発表された年は1987年、他にもホワイトスネイクやらボン・ジョビやらガンズやらモトリーやらでチャートが賑わいまくった頃である。
思い返せば良い時代だったよ…………。
ま、それはともかく、ポップさと重さが絶妙にバランスしている、稀に見る良作である。

じゃ、早速曲紹介。

1:Women
2:Rocket
3:Animal
4:Love Bites
5:Pour Some Suger On Me
6:Armagedon It
7:Gods Of War
8:Don't Shoot Shotgun
9:Run Riot
10:Hysteria
11:Excitable
12:Love And Affection
13:Love And Affection (Live)
*

* はボーナストラック

結構な曲数だ。

1:Women

いきなり名曲でスタートである。
アルバムのオープニングとしてはかなり意外な曲ではあるが、アルバムの流れとしてはこれで大正解、という曲であろうか。
全体的に間が多く、ビートのみで引っ張っていく感があるが、逆にそれがメリハリとなって効いている。
的確に挿入されるギターアンサンブルも絶妙で、曲全体のドラマを上手く引き出している。
特に、サビの部分に来るまでは決して低音弦によるへヴィなリフを使わないところなど、まさにアレンジの勝利といっても良いだろう。
また、エンディングの長大なフィル・コリンのソロも聴きどころ。
蟻君の所ではスティーヴのソロとなっていたが、これは間違いだよ。
スタジオ技術の粋を極めた、至高の逸品である。

2:Rocket

恐らく、この曲以上の馬鹿ソングはないと思う。
サビの部分が「俺はお前のロケットイェイ」である、歌詞の馬鹿さ加減は多分世界一。
しかし、曲の出来はと言えば、シャッフルビートを基調にした展開豊かな素晴らしい曲調である。
注目したいのがエンディング直前のリフ展開で、ドラム、ベース、ギターのタイミングをわざとずらすことで緊張感を醸し出している。
中間部ではレッド・ツェッペリンへのオマージュも顔を覗かせており、遊び満載でありながら充分に聴ける曲となっている。

3:Animal

かなり難解な曲で、ストレートなロックでありながらも非常に捻くれて聞こえる曲だ。
これは偏に激しい転調の繰り返しと、曲のキーを掴みにくいメロディラインのためである。
このアルバムにおいてはそれほどの名曲ではないが、決して捨て曲ではない。
注目したいのは、サビの部分の低音と高音の絡みを演出するギターリフワーク。
低音源の重たい刻みと、高音弦の短音リフのテンションが絶妙である。

4:Love Bites

ジューダス・プリーストの名曲と同じ曲名だが、こちらは非常に美しい、全米1位に輝いたバラードナンバーだ。
この曲はバラードならではの展開の美しさに拘っており、サビの部分の盛り上がりは尋常ではない。
メロディラインも素晴らしく美しく、ジョー・エリオットのヴォーカルの切ない歌唱が心を打つ。
この曲のハイライトは、何と言ってもスティーヴ・クラークによるギターソロ。
普段レス・ポールという重たいギターを使うスティーヴが、ストラトというギターに持ち替えて弾いたクリアなソロは、まさに名演の名に相応しい美しさである。

5:Pour Some Suger On Me

これまた馬鹿ソング。
頭の悪い歌詞ではあるが、曲自体はへヴィで間の多い、まさにミドルテンポのメタルの王道を行く曲だ。
ペンタトニック主体で組みたてられているメロディと、必要最小限のベースが相俟って、重さとハードさを効果的に演出している。
ギターリフも重たさを演出するために効果的な使われ方をしており、効きまくったビートと共に、楽曲にノリを与えている。
作曲者としては非常に参考になる曲だと言えよう。

6:Armagedon It

今度は非常にストレートなロックンロールナンバーだ。
サビの部分の転調以外にはこれといって捻った事はしていないが、ギターのリフが最低音弦と最高音弦の往復で構成されているため、矢鱈と跳ねたノリを感じる曲だ。
しかしまあ、アレンジに凝りすぎた所為かテープの回転数が変わったらしく、微妙にチューニングがずれているのが笑える。
曲としては良い曲だが、捻りがないために、あまり解説を必要としない曲である。

7:Gods Of War

超・名曲。
このアルバムにおける最高のハイライト。
弾いて良し、聴いて良し、歌って良し、なにをするにしても最高の楽曲。
非常に深刻な主題と複雑な展開を持つ至高の名曲だ。
初っ端のS.Eからして既に最高潮で、とてつもない緊張感が漂ってくる。
プレイ自体は単純な刻みと短音リフの絡みで構成されているのだが、その単調さが却って異常なほどに効果的なのは、展開ごとに転調し、刻み方も単音リフも微妙に変化していくからである。
また、ヴォーカルラインにわざと浮遊感を持たせる事で、しっかりとしたバッキングとの間に溝を作り、それを緊張感にしているのも大きい。
サビの部分ではキーボードを的確に導入し、更に曲を盛り上げていく。
このあたりのセンスは、まさに作曲家集団としての彼らにしかなし得ないものだろう。
エンディングではビートルズの曲から拝借したアルペジオが顔を覗かせるが、これもまた非常に効果的だ。
どこを切っても文句の付け所はなく、桁外れの曲だと言って全く差し支えはない。
断言するが、こういう曲を作れるミュージシャンは世界でも彼らだけだ。

8:Don't Shoot Shotgun

たいした事がない、ただのロックナンバー。
別に語るべき物はない。

9:Run Riot

聴くとしたらそれほど大した曲ではないのだが、合わせて弾くならこの曲が一番面白い。
展開に色々と凝った所を持つ、勢いの良いロックナンバーだ。
まず1番と2番で既にキーが違っているという凄まじい凝り方をしている点に注目。
それ故に、1番では歌が入る瞬間に、曲に浮遊感を感じるのである。
また、サビの部分では短音とコードの組み合わせを上手く使い、スピードではなく展開で見せる勢いの良さを演出している。
意外と侮れない曲だと言えるだろう。

10:Hysteria

非常に美しく纏まったナンバーで、始めて聴いた時はこの曲がベストナンバーになるであろう曲。
表題曲だけあって非常にそつなく纏められており、展開の美しさやメロディラインなどの要素も極めてハイレヴェルである。
解説すべき点があるほど凝った曲ではないが、是非聴いておけ、とは言っておきたい曲である。

11:Excitable

その名の通り、1音たりとも無駄のないエキサイティングな曲。
バリバリの緊張感が漂うノリの良いビートソングである。
あらゆる楽器が掛け合いの為に使われており、展開その物が楽器やヴォーカルとの掛け合いで進んでいく。
だから1音も無駄な音が無い訳である。
ドラムのビートの上にベースが乗るのではなく、ベースとドラムが音をぶつけ合ってビートを醸し出している曲だ。
彼らにしては比較的珍しいタイプの曲だが、聞き逃してはならない曲だ。

12:Love And Affection

なんの変哲も無い、ストレートな3コードを使ったナンバー。
別に意味を感じる曲ではない。
強いて言えば、たまにはストレートな曲も入れておこうか、ってカンジだ。
さして言及の必要は無いだろう。

13:Love And Affection (Live)

12のライヴバージョン、それだけ。

 

■前に「Pyromania」の所でも述べた事だが、彼らは基本的に「ライヴを意識した曲」というのを書くことは無い。
あくまでもスタジオでは出来る事を全てやってのける、それが彼らの矜持でありスタイルである。
このアルバムは、その彼らのスタイルが一番色濃く出ているアルバムだといえるだろう。
あらゆる意味で彼らの代表作といって良いアルバムであり、また、現在の彼らが未だに原点としている事を考えても、一度は聴いておくべきである。
これは彼らの最高の「名演」が全て詰っているアルバムなのだから。


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