ザ・名演 Part5


さて、今回は全米で800万枚以上を売り上げた挙句、更に今でも売れ続けている怪物アルバム、デフ・レパードの通算3枚目「Pyromania」である。
このアルバムは、その製作途中にギタリストのピート・ウィリスが脱退し、変わって「ガール」のフィル・コリンが加入する事になったアルバムで、所謂ターニング・ポイント的な位置付けである。
後の彼らの片鱗が窺えるという意味でも非常に重要な意味を持っていると言えよう。
このデフ・レパードというバンドは俺にとってはかなり特別な位置にあるバンドなので、何れ他のアルバムにも言及するつもりなのでそのつもりで。

さて、早速曲紹介。

1:Rock Rock (Till You Drop)
2:Photograph
3:Stagefright
4:Too Late For Love
5:Die Hard The Hunter
6:Foolin'
7:Rock Of Ages
8:Comin' Under Fire
9:Action Not Words
10:Bill's Got A Gun

今回は綺麗に10曲構成だ。

 

1:Rock Rock (Till You Drop)

その名の通り、イキの良いロックナンバーだ。
通常の場合アルバムの一曲目はあらゆる意味で重要なポイントになるが、この曲はインパクトとしては充分。
全体的に複雑な要素を排して敢えて単純なノリで攻めてくる。
ギターによるリフは非常にストレートなハードロックで、アルバムの方向性を明確にしているといえるだろう。
このアルバムでは敢えてへヴィメタルの持つ荘厳さを排除することにより、よりポップな感覚を効果的に導入する事に成功しているが、このオープニングチューンはそれを明確に提示している。
音が硬質なイメージなのは、プロデューサーのマッド・ランジによるもの。
デフ・レパードとマッドはこれ以降、切っても切れない繋がりを持つことになる。

2:Photograph

デフ・レパードの真骨頂、歴史に残る超名曲である。
ギターポップとも言える非常に聴きやすいメロディを持った極めて分かりやすい作りだが、同時にアレンジとしては最高水準の完成形を誇っている。
サビの前で極めて自然に転調している所や、アルペジオプレイによるバッキングなどは、ストレートながらも高い作曲能力を見せ付けるに十分過ぎる物を持っている。
この曲の大ヒットにより、デフ・レパードは一躍スターダムへとのし上がった。

3:Stagefright

今度は打って変わって勢いの良いハードロック。
8分で刻むバッキングと言いスピード感溢れるフィル・コリンのソロと言い、ハードロックの王道を行く作りである。
デフ・レパードお得意の強引な転調なども顔を覗かせる。
しかしながら勢い重視のため、このアルバムではやや浮いた印象を与える所がある。

4:Too Late For Love

ハイライトとも言える一曲。
ギリギリでバラードになるのを防いだ絶妙のメタルアレンジが秀逸。
リフは単音とコードを上手く組み合わせた物で、まさに作曲者集団・デフ・レパードの面目躍如だ。
この曲に限ったことではないが、プロデューサーのマッドは彼らの作曲作業にも絡んでおり、彼らのサウンドだけではなく曲その物の質を高めるための役割も果たしている。
この曲での最大のポイントはギターソロ。
スティーヴ・クラークによるソロは極めてメロディックで、曲の持つ雰囲気にこれ以上無いほどマッチしている。
また、ジョー・エリオットの特徴的なヴォーカルもこの曲には良く似合っており、この曲を名曲たらしめている。

5:Die Hard The Hunter

これまた名曲、と言うかこのアルバムは殆どの曲が名曲なのだが。
劇的な展開と勢いの良さが同居する、メタル風味のアレンジが実に素晴らしい。
バッキングの単音プレイは王道とも言える作り。
中間部のソロはフィル・コリンとスティーヴ・クラークの掛け合いである。
デフ・レパードと言えばオペラにすら匹敵するであろう分厚いコーラスが特徴の一つだが、この曲ではそれがこれ以上無いほど発揮されている。
また、見逃しがちではあるが、このアルバムの製作途中に脱退したピート・ウィリスのバッキングプレイの正確さも特筆すべきであろう。
6分を超える長さを全く感じさせない、非常に完成された名曲である。

6:Foolin'

ごめん。
良い曲なんだろうけど、俺は好きじゃないんだ、この曲。

7:Rock Of Ages

ノリとビートを主眼に置いた1曲。
ベースのリック・サヴェージのプレイに注目。
単純なプレイでありながらドラムとの絡み方が実に絶妙で、間を持ったリズムプレイがいかにベースにとって重要であるかを証明する。
ノリを演出するためのプレイとしては、極めて秀逸だ。
この曲ではコーラスとメインヴォーカルの掛け合い演出が面白い。
アリーナ的なオーディエンスとの掛け合いを想起させる絡みかたであり、ライヴ用に用意された曲である事がバレバレなのが良い感じだ。
毎度の事だが、歌詞の内容はかなりお馬鹿。

8:Comin' Under Fire

彼らには珍しく、非常にストレートで捻りのないアレンジだ。
しかしながら曲としての完成度は極めて高く、他のバンドの曲の中にこの曲が入っていたら、間違いなくハイライトになるであろう。
取りたてて注目すべき点は無いものの、逆に全体的に纏ったハイレヴェルな印象を与える。
相変わらず分厚いコーラスが聴き手を魅了してくれる。
メロディラインの美しさは銘記すべきである。

9:Action Not Words

恐らく彼らの長い歴史の中で、唯一ボトルネック奏法を使ったであろう1曲。
メジャーキーの曲であるだけにポップでノリの良い曲だが、このアルバムの中ではかなり浮いた曲だ。
ギターソロが終わってからの盛り上がり方は相当な物だが、そこまでがやや退屈。
この曲もどちらかと言うとこじんまりと纏っており、彼らの初期の頃の楽曲を思い出させる。
歌詞の内容はやっぱりお馬鹿。

10:Bill's Got A Gun

激烈なる名曲、メタルが好きならこの曲くらいは聴いておけ。
隅から隅まで味わい尽くして、何処にも文句の付けようが無い……と言いたい所だが、5分から後ろはタダの蛇足以外の何者でもない。
これが無ければ歴史に残る一曲だったのに。
まぁそれはともかく、曲自体の完成度はまさにアルバム随一の高さ。
劇的な展開、効果的なキーボード、ギタープレイの秀逸さ、ヴォーカルラインとコーラスの重厚さ、更にこれ以上無いほどドラマティックな歌詞の内容。
どれを取ってもまさしくへヴィメタルの真髄であり、脅威的なカッコ良さを誇る。
ギターソロも申し分無し。
音から判断するに前半がスティーヴ、後半がフィルのプレイだろうと思われるが、何れのプレイもギタリストのお手本のようなプレイだ。
まさに後のデフ・レパード節全開で、この曲あってこその「Hysteria」とも言えるであろう。

 

■という訳で、俺の作曲技法に最も影響を与えたバンド、デフ・レパードについて言及した。
彼らの特徴はスタジオワークの徹底的な活用と、高い作曲能力である。
ライヴでは再現しきれないほどのアレンジの重厚さや、凝りに凝った音作りなどに支えられた彼らの楽曲群は、「アルバムで聴かせる名演」を目指しての物である。
手持ちの武器で最大の効果を発揮させる、それが彼らのスタンスなのである。
このスタンスから彼らの「名演」は生まれてきた。
まだまだ目が離せないバンドである。


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