ザ・名演 Part6


今回のお題は、純粋なるロックやメタルバンドではなく「AOR」(アダルト・オリエンタル・ロック)というジャンルで名を上げてきたTOTOの名盤、「Kingdom Of Desire」にしようと思う。
このバンドはメタルとは無縁だと思われていただけに、このアルバムのキレっぷりは凄まじい。
下手な2流メタルバンドのアルバムよりも遥かに豪快で、且つ純粋なメタルが楽しめる。
では、早速曲紹介。

1:Gypsy Train
2:Don't Chain My Heart
3:Nvere Enough
4:How Many Times
5:2 Hearts
6:Wings Of Time
7:She Knows The Devil
8:The Other Side
9:Only You
10:Kick Down The Walls
11:Kingdom Of Desire
12:Jake To The Bone
13:Little Wing
*

* は日本盤のみのボーナストラック

という訳で、今回は随分曲が多いが頑張るぞ、俺。

1:Gypsy Train

いきなり炸裂するへヴィなギターが印象的なロックナンバーである。
ミドルテンポでありながらも疾走感があるのは、リフメイクが絶妙の間を持ってなされているから。
このあたりは流石に職人芸である。
しかしながらややヴォーカルラインが弱く、画一的な印象がある。
これは本職ではないヴォーカリストゆえの欠点であって責められる物ではないが、パワーがあるだけにもうひと捻り欲しかった。
全体として、アルバムのオープニングに相応しい楽曲だと言えよう。

2:Don't Chain My Heart

ヴォーカルとコーラスの掛け合いが絶妙なブルースハードなナンバー。
注目はやはり女性コーラスを効果的に配したアレンジだと言えよう。
かなりストレートな作りであるが故に、とり立てて盛り上がる所が無い中、このコーラスの掛け合いは非常にインパクトになっている。
エンディングのメロディックなギターソロはかなり秀逸なので聴き逃さない様に。

3:Nvere Enough

前半から中盤にかけては、これと言った所が無い平凡な曲なのだが、ギターソロ開けからのアレンジは注目したい所だ。
さり気なく組みこまれているカッティングプレイの正確さは、ただのインパクトだけではなく、この曲にドライブ感も与える事にも成功している。
しかしながらどうにもヴォーカルラインが弱い。

4:How Many Times

リフはへヴィな作りになっているが、曲全体は浮遊感があるアレンジになっている。
とり立てていい曲ではないが、決して捨て曲ではない。
サビの部分のヴォーカルラインと、キーボードの使い方は注目だ。
特にキーボードの音色の使い分けはかなり凝っていて、この曲が退屈にならないように配慮されている。
ギターソロの部分は楽器を最小限に使うアレンジになっており、分厚い音だけではなくこういう形で聴かせる方法があるという指針になるアレンジだ。

5:2 Hearts

かなりオーソドックスなバラードで、凝ったアレンジやプレイは何もない。
ヴォーカルも良く練られたラインを持っていて、聴かせるということに全力を尽くしたアレンジになっている。
楽器全体で同じコードを動いていくという王道の作りもあって、かなり豪勢なバラードと言える。
全体的に鳴り響いているギターソロもメロディックで、雰囲気を盛り上げるのに一役買っている。

6:Wings Of Time

非常に幻想的なイメージがある曲で、大袈裟に効きまくったリバーブがそれに拍車をかけている。
ベース、ドラム共に動きを極力押さえているが、これは恐らく独特の浮遊感を出すためのアレンジの一環と思われる。
キーボードも非常に音像のハッキリしない音を使い、わざと輪郭をぼやけさせている。
更に、ギターのリフも1・2・3弦を主軸に作られていて、重さを感じさせないようにしている。
音色には所々にフランジャーをかけることによって、更に独特の効果を出している。
しかし、ドラムのハイハットには注目。
かなり小憎たらしい小技が使われていて、ポーカロの職人魂が垣間見える。

7:She Knows The Devil

このアルバムでは最速のハードドライブナンバー。
リズム隊はかなりストレートなプレイ、ギターもそれほど凝ったことはしていない。
しかし、凄まじいドライブ感があるのはヴォーカルラインのアレンジと、16部音符を正確に刻むカッティング、そしてハイハットの効果的なアクセントである。
この曲では、単純なプレイの中でもドライブ感溢れるノリを演出する、ドラムのスネアの使い方に注目だ。
スネアのタイミングでノリを出すのはかなり難しいが、それを見事にやってのけているポーカロのプレイはやっぱり素晴らしい。

8:The Other Side

それほど大した曲ではないが、雰囲気とメロディ重視で作られた、ややバラード的なナンバーだ。
ギターとの絡みを演出するピアノが秀逸である。
ヴォーカルラインも良く練られた物で、歌唱力も充分。
しかしながらやや盛り上がりに欠ける単調さがある曲である。
エンディングのギターソロの音色は素晴らしい。

9:Only You

これもメロディを重視して作られたと思われる、バラードナンバー。
曲が始まってからしばらくの間、曲のキーが分かりにくいために、曲全体が不安定に聞こえるが、これが狙い。
また、わざとへヴィさを強調したベースラインが独特の絡みを演出する。
曲の長さもそれほどではなく、あきさせないように気が配られている。

10:Kick Down The Walls

跳ねまくったギタープレイと、洒落にならないくらいに重いベースプレイが特徴的なロックナンバーだ。
ヴォーカルラインも勢いやノリを演出するために作られたようなラインで、聴いていると体が勝手に動いてくる。
このナンバーだけがプロデューサーが違う人間で、新しく刷られて発売されたCDには未収録になっているという話らしい。
かなり勿体無いと思うが、それは置いておくとして、この曲ではリズム隊の纏り方に注目。
この曲シャッフルビートなのであるが、これ以上ないほどそれを感じさせてくれるベースとドラムの絡みに思わず乾杯である。

11:Kingdom Of Desire

友人の蟻くんはこのイントロを聞いて「君が代」だと言い張っていた。
まあ、雰囲気的に似ていなくもないが、こちらはアレンジが絶妙で、完璧なメタルと言って差し支えない。
メインのリフは、3・4弦の5度コードを使ったギターと、5・6弦を使ったヘヴィなギターリフとの絡みで出来ているため、かなり劇的なアレンジに成功している。
ソロ前のキーボードのコード上昇と、ギターの絡みは失禁モノのカッコ良さである。
曲の方法論は完全にメタルで、音色もヴォーカルの声質も全くそれ向きに出来ているため、物凄い迫力である。
間違いなくこのアルバムのハイライトで、7分を超える曲の長さを完全に失念させる。
超名曲である。

12:Jake To The Bone

ハードなインストナンバーだが、変拍子の効きが良くノリがいい。
しかしながら展開がどうにも退屈な部分があり、7分を超える長さは明かに長過ぎであると言えよう。
ギターの音色は非常にいい。

13:Little Wing

ボーナストラックと言うだけあって、本当にボーナスと言うか、蛇足。
これが入っている意味は殆どない。
彼らのライブビデオから引っこ抜いてきた物で、ジミヘンが好きなルカサーが楽しんでる以外は聴き応えがない。
まさにあってもなくてもどっちでもいい。

 

■さて、TOTOと言えば「元はスタジオミュージシャン」達の集まりだった。
故に、様々なタイプの楽曲をそつなくこなしていく器用さがあった訳であるが、このアルバムでは逆にバンドとしての纏りを感じさせる。
その上に立脚した「職人的技」が効果的に効いていて、己の職分をきっちりとこなしつつも纏っているという印象を与える。
しかし、このアルバムの発売直後、ドラマーのジェフ・ポーカロが他界し、バンドは再び迷走していく。
そんな彼らの、一番纏ったアルバムだと俺は思う。


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