ザ・名演 Part9


もうこのシリーズも9本目か………。
さて、今回は80年代末期、ハードロック全盛期も華やかなりし頃、時代に巨大な爪痕を残したモンスターアルバムについてだ。
お題はガンズのデビューアルバム、「Appetite For Destruction」である。

では、早速曲を並べてみよう

1:Welcome To The Jungle
2:It's So Easy
3:Nightrain
4:Out Ta Get Me
5:Mr. Brownstone
6:Paradise City
7:My Michelle
8:Think About You
9:Sweet Child O' Mine
10:You're Crazy
11:Anything Goes
12:Rocket Queen

かなりの曲数で、ボリューム満点だ。

 

1:Welcome To The Jungle

強烈なディレイエフェクトからスタートする、紛れも無い彼らの代表曲。
非常にシンプルなドラム、同じラインを移動するベースとギター、ノリにノッたヴォーカル、必要充分条件のギターソロ、いずれも「ロックンロール」の典型である。
この曲で是非注目したいのが、ダフ・マッケイガンのベースプレイだ。
基本的に上手くない上に、センスも無いタイプのプレイヤーではあるが、この曲のベースプレイはかなりグッド。
特に中間部におけるギターソロの後ろでは、かなり痛烈なリフを展開させていて、曲のビートを維持することに成功している。
多くのベースプレイヤーにとっては、非常に参考になるだろう。
ラストのシャウト、「悦子の母乳だ、ふぁっ!」はあまりにも有名。
また、某漫画の「しゃななな、ひざっひざっ」「へ、へび! 俺のへび!」も元はこの曲である。

2:It's So Easy

極めて平坦な、大昔のパンクを彷彿とさせる曲調が特徴だ。
アクセル・ローズのヴォーカルも低音主体で組み立てられており、全体にあまりに捻りを加えないアレンジになっている。
それゆえにか、かなり退屈さを隠せない曲でもある。
注目点はエンディングのギターソロにおけるかなりフラッシーなプレイくらいな物だろう。

3:Nightrain

この曲もまたストレートな8ビートナンバーではあるが、退屈は感じさせない。
かなり捻って作られたリフと、間を持たせた曲調、サビに来て一気に盛り上がるアレンジ、それらが絶妙に噛み合った結果といえるだろう。
特に、ベースとギターの絡みという、一番王道の部分に時間を割いたリフメイクが非常に効果的。
前半の間の多い展開からは想像もつかないほどに盛り上がる曲であり、ハードロックらしいハードロックといえる。
ドラムのカウベルもかなりいいアクセントになっており、贅肉を省いたアレンジが小気味いい。
ギターソロも非常にストレートで、ハードロックの王道を意識したペンタトニック展開で攻めてくる。
王道中の王道の一曲だ。

4:Out Ta Get Me

これもストレートなハードロックなのだが、リフの展開に手を加えたりしてマンネリ化を防いでいる。
この曲ではアクセルのヴォーカルと、コーラスの絡みがいい味を出している。
更にギターソロでは転調を盛り込むなどしているが、それでもやはり似た曲調の曲が多いためにイマイチ盛り上がりに欠ける。

5:Mr. Brownstone

今までとは打って変わって、16ビート主体で攻めてくる。
イントロのカッティングプレイと、その後に続くギターコードプレイは中々に再現不可能。
全体としては明るめのロックナンバーとして仕上げているが、アクセルのヴォーカルのノリの良さが曲を盛り上げている。
また、ギタープレイもかなりリズミカルに決まっており、複雑なプレイが実に効果的に生きている。
ドラムとベースが間を多めに持たせ、その間を16ビートのギターが埋めるという効果的なアレンジが秀逸。
ハイライトにはなり得ないものの、前菜としては文句の無い曲だといえるだろう。

6:Paradise City

ハイライト。
歴史からこの曲が抹殺された時、音楽は死滅する。
と言うか、この曲が無くなった音楽界には一文の価値もない。
展開といい、全体的な纏まりといい、あらゆる部分で「名曲」の名をほしいままに出来る事疑いナシである。
特にリズムとリフメイクが絶妙で、ノリの良さと重さが同居するという、完璧なハードロックソング。
アクセルのヴォーカルの、絶妙なメロディーラインや、スラッシュのエンディングソロや……あ〜〜もういい!!
説明なんかしてられるか!!!
聴け!!!!
とにかく聴け!!!!!

7:My Michelle

名曲の後は駄曲。
と言い切ってしまうほど酷くは無いんだけど、俺は好きじゃない曲。

8:Think About You

高速8ビートナンバーなのであるが、これと言った取り柄がある曲ではない。
強いて言えば、サビの美しさは中々聞かせる、と言った所か。
しかし、サビ以外の部分がそれほどではないので、退屈ではないものの、強引さに耐えきれなくなる曲でもある。

9:Sweet Child O' Mine

これまたハイライト、このアルバムで一番美しいバラードナンバーである。
レス・ポールの音色の美しさを生かしたスラッシュのソロプレイが最高だ。
また、ダフのイントロにおけるベースは、あらゆるベーシストが謙虚に見習うべき名演である。
全体的には結構ノリノリで進んでいくが、ヴォーカルラインやスラッシュのソロが素晴らしいアクセントになっていて、曲全体のノリよりも美しさを強調してくれる。
中間部におけるギターソロではワウペダルを駆使した、実にオーソドックスでメロディックなプレイが堪能できる。
このプレイは名演なので、是非聴いておきたいところだ。

10:You're Crazy

捨て曲、以上。

11:Anything Goes

16部の刻みを基調にしたギターリフからはじまる、かなり凝った曲だ。
ロックンロールであるが、展開はかなり複雑に出来ていて、一筋縄では行かない。
様々な小技がちりばめられていて、中々楽しませてくれる曲だ。
注目したいのは、16部から8分に移る瞬間のリズム隊のプレイ。
こう言ってはなんだが、かなり強引にねじ伏せつつも、ノリを生かしたプレイが絶妙。
それはエンディングの、シャッフルビートに移行する瞬間も同じ。
こちらはアクセルのアカペラを挟んだプレイだが、ここの力技も見逃さないでおきたいところだ。

12:Rocket Queen

彼らには珍しく、かなり派手なエフェクトからスタートするこの曲、ちょっと聴いただけではエンディングにはふさわしくないようにも聞こえる。
しかし、曲としてはかなりストレート且ついいビートを持っており、ハードロックとしての完成度は高い。
特に単音刻みのリフはノリと同時の重さも演出しており、アレンジとしては王道でありながらも、微妙に刻み方を変えるなどの工夫を凝らし、飽きさせないようなアレンジになっている。
しかし、3分半あたりからの展開は唐突で、慣れないとかなりバラバラに聞こえる曲ではある。

 

■ガンズの最大の武器はなんだろうか。
そう問われたなら、俺は迷わず「ビート」と答える。
基本には「ロックンロール」を置いた曲展開、その上でハードなプレイを聴かせるアレンジ、それはある意味ハードロックの王道であって、同時に誰もしたことがない挑戦でもあった。
何故なら、それまでのハードロックの基本にあったのはあくまでも「ブルース」であったからである。
これを排除し、あくまでも「ハードなロックンロール」に拘ったのが彼らの姿勢だと言える。
結果的に彼らは頂点に上り詰め、その挑戦の正しさを認知させた。
しかし、そこにあったのはポジティブなチャレンジ精神などではなく、徹底的に管理と束縛を嫌った、所謂「反骨精神」であった。
彼らが生み出してきたビートは、全てこの精神を持っている。
凝れこそが彼らの「名演」の秘訣だったのであろう。


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