ザ・名演 Part1


さてと、今回取り上げるのは我がギタースタイルの師匠になった猪・・・もとい漢、ゲイリー・ムーア。
取り上げますアルバムは「Victims Of The Future」。
恐らく、ゲイリーのスタイルが最もヘヴィメタルに近かった頃のプレイについて色々語っていこう。
当然のことだけど、この人を取り上げたからには、今回メインで扱う楽器はギターね。

アルバム構成曲は以下の通り(限定リリース番ではなく、一般的な奴ね)。

1:Victims Of The Future
2:Teenage Idol
3:Shapes Of Things To Come
4:Empty Rooms
5:Murder In The Skies
6:All I Want
7:Hold On To Love
8:The Low Of The Jungle

それじゃ、一曲ごとに語っていこう。

1:Victims Of The Future
このアルバムで最もハードで、最もカッコイイ曲。とにかくギターがスゲェ。
まさに鬼神の如くである。
特に凄いのが、ギターソロ。前半のタメまくったプレイから、開放弦を絡めたトリルがらみの下降フレーズを挟んで、最後は六連譜の激烈な上昇フレーズ。
ただ速いのではなく、しっかりとした起承転結と覚えやすいメロディが実に印象的。
このプレイを聞いただけでも、ゲイリー・ムーアというギタリストが稀代の天才であることが分ろうというもの。
また、手数に頼らないイアン・ペイスのドラムにも耳を傾けてみるのも良い。
間の多いドラミングでありながら、少しも曲に隙間を作らないところが、まさに職人芸である。
あのドラミングを他人がやったら、ただの下手糞にしか聞こえないだろう、多分。

2:Teenage Idol
ゲイリー流のロックンロールソング。
この曲では、是非ゲイリーのギターの「リズムキープ」という点に注目して欲しい。
8分音符を連続で刻むのはギタリストにとって基本技だが、その基本をおざなりにしないところが、実に楽曲に拘るゲイリーらしくて良い。
ギターソロでは、ハーフミュートによるフレーズを効果的に使い、また、全面的に弾きまくるのではなくバッキングとの掛け合いを演出しているところがポイント。
弾きまくるのだけがギターではないという事を教えてくれる。作曲などをやっている人には、良い参考になるだろう。

3:Shapes Of Things To Come
ちょっと記憶が定かでなくて申し訳ないが、確かヤード・バーズの曲のカヴァーだった筈である。オリジナル曲では、ジェフ・ベックがギターを弾いていた。
ゲイリーにとっては、ジェフ・ベックはギターの神様のような存在であるらしく、オマージュとして捧げられた曲のようだ。
この曲の凄みは、元曲と聞き比べてみれば分る。
曲を「アレンジする」という作業の一つの指標となるであろう。

4:Empty Rooms
この曲ほど俺のギタースタイルに影響を与えた曲はない。
淡々と進む楽曲の中で聴かれるフィルインギターは、切なく、心を揺さぶるような美しさ。
ギターソロは、まさに「歌うギター」の代名詞であり、速いだけのギターなんて何の意味もないという事を教えてくれる。
エンディングで聴かせる緩やかなソロはゲイリーの真骨頂であり、楽曲無くしてギター無し、という真理を改めて確認させるものだ。

5:Murder In The Skies
前の曲とは打って変って、激しいインプロヴィゼイションをフューチュアしたこの曲は、大韓民国機撃墜事件を主題にした曲である。
重い主題に相応しく、激しく荒々しいプレイと、重厚な音作りが特徴的だ。
イントロのアドリブによる超速弾きも凄まじいが、この曲のハイライトはそのバッキングプレイ。
ハネまくったプレイをキープし、しかも充分に楽曲の重さを演出するプレイはまさに圧巻。
また、4度和音を効果的に使用したリフメイクも良い。
ギターの上手さはリフで決まる。ゲイリーのギターワークは、その上手さを存分に味わわせてくれる。

6:All I Want
まあ、なんの特色もない曲だな。このアルバム唯一の駄作だと思う。
リフのギターはちょっと異常な作りをしているが、速いのが売りみたいで、別に訴えかけてくるもんじゃないし。
という訳で、次行こう、次。

7:Hold On To Love
フォービートによる重厚なアレンジと、マイナーでありながらもポップな曲調がすばらしい。
ジャーニーの「セパレイトウェイズ」をよりポップにするとこうなるだろうか。
この曲でのソロパートでは、ギターの歪みを絞ったプレイが聴き所。特にイントロのプレイは素晴らしい。
メロディをしっかりと弾き切る姿勢が、ギタリストというよりミュージシャンとしての矜持を垣間見せてくれる。
このプレイでは、明らかにストラト系のシングルコイルフロントピックアップの音を使っている。
この音色のバランスに対するセンスも、ゲイリーの天才たる所以である。

8:The Low Of The Jungle
この曲では、ギターを取り上げるというよりは、全体的な楽曲のオーケストレーションに注目したい。
音色の組み合わせや、和音同士がぶつかって醸し出す雰囲気の怪しさなどを考慮した作曲とアレンジが為されており、ゲイリーの狙った通りの演出を成功させている。
しかしながら、惜しむらくはその冗長さ。
全体的に単調な曲調で劇的な要素に欠けるため、どうしても長さの方が気になってしまうのが惜しい。
それでも、狙った通りの演出をギターのみならず楽器全体で成功させるセンスは、やはり只者ではない。



■要するに、ゲイリー・ムーアという人は「ギタリスト」としてよりも「ミュージシャン」としての姿勢を大切にしているのである。
長年ゲイリーの楽曲を聴いてきて、俺が見習うべきだと思ったのはまさにそこである。
ギタリストとしての上手さではなく、作曲者としての姿勢に拘る。
それこそがゲイリーのプレイを「名演」たらしめている最高の要素ではないかと、俺は思っている次第だ。


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