ロマンホラー! 真紅の秘伝説
〜〜 葉子の奇妙な冒険 〜〜
幸・ザ・ボス
『どこでどう選択を間違ったんだろう。私たち三人がFARGOに敵対する者だという事は実にあっさりと露見し、私たちは宗団を挙げての「消去」の対象となり、信者たちや施設職員たちに追い掛け回される派目になってしまった。唯一の頼みの綱であるはずの不可視の力も、まだ手に入れていないというのに。
そんな状況下である以上、私たちは非力な少女三人の集まりに過ぎない。追っ手を撃退できる力など持ち合わせていないのだ。散々逃げまわった私たちは、取り敢えず地下通路に逃げこんでいた。
「由依ぃ、晴香ぁ、生きてるかぁ!?」
「ええ、なんとかね」
生きているのが奇跡に近い。銃弾が体を掠め、何度も「死」を身近に感じた。不思議と恐怖はなかったが、それでもまだ死ねないという執念のようなものが、私たち三人を突き動かしている。
由依も晴香も、体を通路の壁に寄りかからせて、荒い息を吐いている。
2人とも無事で何よりだけど、しかしここに隠れていられるのもあと僅かだろう。私のルームメイトの少年が教えてくれたこの地下通路だが、信者はともかく、職員たちが知らないとは思えない。バレるのも時間の問題だ。
そう思った時、A棟の方から大勢の人間のくぐもった声が聞こえた。壁越しに聞こえるような、はっきりとしない声だ。続けて重いものが軋みを上げる音が聞こえ、金属音が重厚に反響する。各棟に通じる通路のうち、A棟の方に向かう通路に、パッと光が差した。
間違いない、追っ手がこの通路に目をつけたのだ。彼らがベッドの下に隠されていた隠し扉を開き、この地下通路に入ってこようとしているのだ。
「上から来るぞぉ、気をつけろぉ!」
「こっちです、郁未さん!」
私たち三人は、彼らが来るのとは逆の方向に走った。この先がどうなっているのかは分からないが、今現在、逃げられる可能性のある選択肢はそれしかなかった。
だが、それは希望的観測に過ぎなかった。無情にも無機質な壁が私たちの進路を塞いだのだ。
灰色の重たいコンクリの色が、私たちの心を絶望の色に染め上げようとする。
崩れ落ちそうになる体を辛うじて支えるが、私の視線は勝手に地面に向かった。まだ何もしていないのにここでお終いなのだろうか。私たちは所詮ここまでなのだろうか。復讐も、それを果たすべき相手も、そしてお母さんの死因も分からないまま、こんな闇の中で朽ち果てるのか……。
その時、地面に落ちた私の視線にマンホールが映った。赤錆びた重厚な金属の蓋。音を立てないようにそっとその蓋を持ち上げると、そこには地下に続く階段があった。
暗闇に向かうそれはしかし、私たちにとっては唯一の希望への道程だ。生きるという希望。生き延びて再起を図る、そのチャンスを得るためのほんの僅かの希望。
「なんだこの階段はぁ!?」
「とにかく入ってみましょうよ」
階段を降りていく。幸いな事に追っ手はこちらに全く気がついてはいないようだ。上手く振り切れた事で安堵の息が漏れそうになるが、ここで油断する事は出来ない。この先に何が待ち構えているのか、全く分からないのだ。
暫く下り階段が続いていたが、その先には分厚い灰色の扉があった。
赤い宝石のようなものが埋めこまれていて、鈍い光を放っている。
「せっかくだから、私はこの赤の扉を選ぶぜ!」
私が扉に手をかけると、それは意思を持っているかのように自然に開いた。光が周囲に乱舞し、思わず目を細める。そしてその眩い光の中心には、得体の知れない何かがあった。
ゆっくりと手を伸ばすと、それは私自身を待ち望んでいたかのように、私の掌の中にそっと収まった。
こうして郁未たちは不可視の力を手に入れた。
しかし、今FARGOの放つロスト体が、郁未たちに襲いかかる……』
「人のパソコン使って何やってるのよ、葉子さん」
「ちょっとしたお話を書いてるんですが」
「それは分かるけど、これは一体なに?」
「タイトルは『デスクリMOON.ゾン』とする予定ですが、この間やったゲームと郁未さんの体験談とをクロスオーバーさせた……」
「こんな体験してないっ!」
「天沢郁未、コードネームはコンバットいくみん。元傭兵、今は医者。好物は焼きビーフン……」
「やめんか!」